24のセンチメント22 寡黙で熱い渇望の~『魔道祖師』墨香銅臭(ぼっこうどうしゅう/モーシャントンシウ)著

*ネタバレ感想になりますので未読の方は下記読まないようになさってください*ダリアシリーズユニ 電子版・紙版ともに販売があります


数年前に高校来の友人とLINEで久々にチャットしてたら、中華BLにハマって自力で翻訳しながら読んでると宣う。相変わらず斜め上に情熱的なオタクだな~って大受けしつつ、私にはそこまでの情熱がもてないだろうと済ませてた。元々大きな嗜好は似ていてもハマる作品はだいぶ違うので、お互いにさほど勧め合わない。

が、たまたま前知識ゼロでアマプラで見た「天官賜福」のアニメが絵が美麗だし、なんだかとぼけた美形の主人公が総受けというか、あれこれBLですよね?と。ただアニメだとどうしてそこまで主人公が周囲にはバカにされているのかの背景とかがさすがに分かりにくい。電書で買って読んでみたらなんとまだ翻訳版は途中までで全巻出るまでまだだいぶ先だという。ショック。そこではっと気が付いた、もしや友人がハマってたというのはこの作家さんでは??(今夏久々に帰省して会うので聞いてみよう~~と思っていて、まだ聞いてない。)

しょうがないので、既に完結まで翻訳版も発行しているらしい「魔道祖師」を全巻一気買いして読み始めたら、けっこう闘いの場面とかエグイ中に微糖が散りばめられている。
寡黙で真面目な美形が主人公(悪童だけど有能で人気者の)魏無羨に嫌がってる風を見せながら密かにずっと思い続けてきたのが読者にはひしひしと伝わる。が、肝心の本人はまさか気のせいと済ませている。なので微糖の出し方が面白い。特にたった一杯のお酒に酔った藍忘機の行動がめちゃくちゃ可愛い。顔には一切出ないのに行動だけひたすら素直に子供っぽく我欲丸出し。温寧を邪魔にし、あっちに行けと言わんばかりに蹴とばす、部屋に戻ると鬼ごっこ。捕まったら手を舐めるぞと言われるとわざと捕まる。
舐められるとハッと隅に蹲り衝撃に耐えている。なんなのこの可愛い生き物は。美青年がいきなり幼児化するのに、目線だけは熱く魏無羨のことを「わたしのもの」「ほしい」とか言う(のだが、たまたま彼の剣を背負っていたのでそのせいかと思う魏無羨;)

こういう可愛いイチャイチャで和ませつつ、本流は非常に重たい。
出自でずっとバカにされながら、這い上がるように頂点に立った男。その腹心。彼らのやったことは非常にあくどい一方、そこまでの心理を想うとそれはそれで非常に切ない。
特に悪役としてのごろつき薛洋が暁星塵と宋嵐にやったことは悪辣で酷いモノなのだが、自分で追い込んで魂までもボロボロにした暁星塵のことをどうにか蘇らせようと魏無羨に頼む。
気高い道士として並び称された二人の関係を妬んでいたのか壊したかったのか。悲惨な子供時代を知り、だからといって慰めるような言葉をかけるとかではなくそっとに毎晩飴を枕元に置いていた暁星塵。そしてそれを大事に懐に入れていた薛洋。自らの手で追い詰めて殺しておきながら、散らばった魂魄を搔き集め、生き返らないことをなかなか受け入れられない。
焼けつくような羨望と嫉妬の中で生きてきた。本当は優しくされたことが大切だったのに素直にそれを認めたら生きていけなかった。
そして暁星塵に懐き同じように救われた阿菁が亡霊になった後も彼を守ろうと動いてきた一連には涙でした。

魏無羨が義を見て動く度にどんどん評判は落ちるわ奸計にハマっていくわ。
酷い悪名を背負わされた前世の流れが明らかになっていくと、無責任な噂を流す現世にも似て。簡単に手のひらを反す人たち。
「正義」を声高に叫び、戦争を起こす人たちの「正義」というもののあやふやさ。それに簡単に煽動されてしまう世の中を燻り出すような、何もかもを魏無羨のせいに押し付け、正義の討伐だと言う輩たち。
義兄弟である江澄は何をやっても彼に敵わないこと、父母の不仲、父に愛されていないのではという劣等感もあり、それでもずっと庇い続けていたのに、彼の後始末に奔走させられ。
魏無羨のせいではないと分かっていながらも、引き金にはなっている彼のせいで父母も死に一族の危機もあり、慕っていた姉の死もあったことで前世では最後彼をひどく憎むまでに至っていた(でもその裏には結局愛がある。)

一見他者には常に水と油のように対立していた藍忘機は、ずっと彼の扱っている邪道の術「鬼道」が暴走し彼自身に制御できなくなるのを懸念していた。
そうなる前に囲い込みたかったのだ。でも間に合わなかった。
戻ってきた魏無羨を見出した時の藍忘機はおそらくは二度ともう離さないと心に誓っていたんだろうと思う。
ごく一刻も目を離さず守りたい。ずっと一緒にいたい。
意識がある時には決して言葉にはしないその渇望が酔って素直になった時だけ出てくる。
3巻までは本当に凄惨な場面も多く微糖なのに、4巻になって想いが通じ合ったとたんにイチャイチャモード爆裂でびっくりでした。

実は読んでいて、他人に頼りっぱなしの某って怪しいと思っていたら、やっぱり最後まで尻尾を隠しつつ、他人を動かし望む状態に持って行ってた。
世の中で他人にバカにされてでも、自らの爪を隠し他人を動かし思う状態に持って行った某が一番賢かったんだろうなと思ったり。
このことが出てきた時まだ残りページがだいぶあったので、あれまだどんでんくる?おかしいなと思ったら、そこはそれで終わりで(他人を動かしてただけなので本人はやっていない)、残りはイチャイチャと過去別視点番外編で納得した。いちゃいちゃは心の健康に良いですね。

<24のセンチメント>22

|

24のセンチメント21 弱くても逞しく~『幸せになりたい オメガ騎士に嫁ぐ』伊達きよ著 イラスト本間アキラ 

現在紙本・電書版ともに発行あり。ルビーコレクション 2023年6月30日
*感想、ネタバレありますのでご注意ください*

最初にこの本を知ったのは作者さんのTwitterだった。なんとイラストが私の好きな本間アキラさんなのでこれは買わねばと思って買いました。
私は元々BL小説の方はちょっとしか読んでいないのだけど久々に。
知らない間にα(男性性)に対してΩという第三の性(女性性を持つ男性)というのがだいぶ普及してるらしく(一番最初の作品は何か知らないですが)主人公はΩというレアな性質。稀少でかつ、弱者でもあるランティは宿屋に勤めながらそれでも絶対に幸せになってやるという野心を持っていて。
ある時宿泊客の野性味のあるαを騎士様と信じて強引に嫁になった。

半ば押しかけ嫁として嫁いでみると騎士様と思ったガォルグは実は木こりでその生活ぶりは決して豊かではなかった。がくりとしながらもそこからのランティの巻き返しが凄い。貴重な木材を安値で売ってしまっているガォルグの商売っ気のなさを知ると彼は勉強して商売を切り開いていく。
この飽くなき幸福への真面目な努力ぶりがかなり好きです。特殊な性に生まれ、狙われ虐げられがちなランティを庇い守る立場になっていくガォルグの不器用な優しさがまた良くて。

まあ実際のところ、ガォルグは本当は…ということで物語は一転していくのだけど、お互いの始まりが詐称と思いこみによる言葉のすれ違いが後に響き、両片思いのまま立場はとっくに夫婦なのにじれじれと儘ならない。
いい加減気づけ~~と周囲も読者も思いながらのラスト。
なんせΩの発情期にもじっと我慢してしまわれた末ですから、ようやくですね。計算高いくせに健気で一途で可愛いランティと無口で不器用で優しいガォルグ、本間さんのイラストがぴったりです。
それにしてもこういうじれじれモノがいわゆる自分の好みなのだなーとはまたしても痛感するのでした。

<24のセンチメント>21

| | Comments (0)

本好きの下剋上 ネタバレ感想(まとめ)

一昨年に沼落ちしてからやたら感想を挙げているのですが、量がめちゃくちゃ多い上に長文、そしてバラバラなので、下記にまとめてみます。
全部読むと相当時間を食います;;この後noteにももう少し見やすく挙げていこうと思います。
どんだけ書いてるんだって自分でも思いますね。

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想(2022年11月20日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2022/11/post-94c238.html

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想 2(2022年12月3日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2022/12/post-641e84.html

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想 3(2022年12月19日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2022/12/post-439822.html

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想4(2023年1月14日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/01/post-d3e807.html

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想5(2023年2月19日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/02/post-1b40ce.html

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想6 (2023年6月9日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/06/post-5a9565.html

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想7(2023年8月15日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/08/index.html

≪31-33巻 新刊読んでの感想≫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■『本好きの下剋上31巻』ネタバレ感想(2022年12月11日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2022/12/post-ef6ac4.html

『本好きの下剋上31巻』ネタバレ感想2(2022年12月12日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2022/12/post-947036.html

■『本好きの下剋上32巻』ネタバレ感想(2023年5月13日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/05/post-a2304a.html

■祝!!『本好きの下剋上33巻』完結巻発行&ネタバレ感想(2023年12月13日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/12/post-0dd205.html

■『本好きの下剋上33巻』完結巻 ネタバレ感想2(2023年12月16日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/12/post-e4e114.html


≪疑問 推測編≫・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■『本好きの下剋上』ネタバレ感想 疑問編(2022年12月20日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2022/12/post-c60477.html

■『本好きの下剋上』疑問編2(2023年1月7日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/01/post-3a1dd0.html

■『本好きの下剋上』疑問編3(2023年1月9日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/01/post-a96ba7.html

■『本好きの下剋上』疑問編4(2023年1月9日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/01/post-cdd05a.html

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
■『本好きの下剋上』ネタバレ感想 疑問推測編1(2023年11月3日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/11/post-5545fa.html

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想 疑問推測編2(2023年11月5日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/11/post-113813.html

■『本好きの下剋上』ネタバレ感想 疑問推測編3(2023年11月6日)
http://haneusagi.cocolog-nifty.com/simauma/2023/11/index.html

|

24のセンチメント19静謐で緻密な植物と異形と~『百草の裏庭』青井秋著

現在電書版発行あり。Canna Comicsコミック 2020年12月25日プランタン出版発行
*感想、ネタバレありますのでご注意ください*

書店をふらふら見ていて、表紙絵に一目惚れして購入。ともかく絵が美しいのだ。細やかに描き込まれた植物。特に菌糸類がお好みなのではなかろうか。この表題作以外で植物学者の話などもあるが、これでもかと張り巡らされた菌糸類も美しい。

物語は黒い森に入り込み薬草を摘んでいた兄妹。「美女と野獣」のように角のある異形の主と出会ってしまった少年の怯えから始まる。
妹は毒虫にやられて倒れてしまい、異形の主から連れて逃げることも敵わず。異形の主は妹の解毒が出来ると言い、少年は助けてくれ、自分が言うとおりにするから、と命乞いをする。
約束の通りに妹を助けてくれた主の館に、妹が婚姻で巣立って行った後訪れる少年は、異形が優しく穏やかな男で、ただ孤独で寂しい生活だったから話がしたかっただけと打ち明けられ、二人は徐々に打ち解けあっていく…。

お互いのそれまでの孤独な生活が二人で作る食事、二人で囲む食卓、穏やかな会話で温かく色が付いていく。本がびっしり並ぶ館の図書室は素晴らしい光景で、本好きには堪らない。
文字はあまり読めないという少年に読み書きを教えたりする異形の男との生活はゆっくりと満たされていく感じで読んでいて癒される。
気がかりだったのは、幸福な結婚をした妹が一人暮らしの兄を気遣って定期的に訪問してくれるのだが、異形の彼との暮らしについて一つも報告していないことだったが…。

乱暴な人間、傷つける人間が出てこない優しいファンタジー。
性的なものも一つもないのだけど、この二人は寄り添って生きていくだけで十分に幸せなのだなと思える。
疲れている時には心に染み入るような、優しく美しく流れる時間なのだ。

<24のセンチメント>19

|

24のセンチメント20~救済の物語~『君の夜に触れる』もりもより著

現在電書版・紙版ともに発行あり。(from RED comics) 2022年10月7日
*感想、ネタバレありますのでご注意ください*

ともかく絵が美しい。これも書店でふらふら回ってあまりに絵が好みだったので一目ぼれして買った一冊。
家の片隅でひっそりと生活している盲目の少年・佳澄と、荒んだ暴力的な世界にいる千夏の出会いの物語。
少しバックグランドが分かりにくいところもあるけれども、ピュアな魂そのままのような佳澄が可愛いくて宝物のような存在で孤独な魂が一気に引き寄せられてもしょうがないと思ってしまう。画力の勝利!

飼い殺されるような大きな旅館の片隅でひっそりと生活する佳澄はそれでも何も恨まず、出来ることを自力でこなしている。跡継ぎとされた弟も兄のことは邪険にはしていない。アタリの厳しい母親の陰でひそかに気遣いはしてくれているが寂しい生活であることは分かる。
初めての殺人(失敗!)の場面を目撃されたと思っていた少年との思わぬ再会に動揺しつつも、気になり家まで送り交流が始まる。自分への言い訳のようにもし目撃していて記憶がありおかしな様子があれば…と思う千夏だが、孤独な魂が惹かれ合っていく様が丁寧に描かれている。
殺し屋家業を親子で引き継いでいかねばならないというダークな設定が少し分かりづらいというところはあるが、救われ合う関係が尊い。
佳澄がともかく可愛い(二度目)ので、何もかももっていく、に尽きる。

<24のセンチメント>20

|

『あさきゆめみし』×『日出処の天子』二人展 札幌旅行

行ってきました。
幸い天候にも恵まれとても良い旅になりました。
トークイベントの感想はnoteに書きました。
お時間ある時にでも読んでみてください。
詳細は『ダ・ヴィンチ』に掲載がある予定だそうなので、私のはあくまでも個人の感想とまとめです。

https://note.com/amanoakimi/n/n449c17a424e0

前日金曜日に札幌に着いて、この日は日中は近くをうろうろ散策したり。
雪は残っていたけど晴れて割合暖かく。夕方仕事を終えて着いた友人たちとスープカレーの人気店で一緒にごはん。
9日に宴会に参加する予定があったし、お酒はさほど飲まず。
カレー美味しかったです。


Img_4247

トークイベントに届いていた萩尾先生からのお花など↓

Img_4243

Img_4246


Img_4242

旧四季劇場だった建物の名残り写真↓
Img_4248

|

24のセンチメント18それでもやっぱり恋をする~『どうしても触れたくない』ヨネダコウ

現在紙本・電書版ともに発行あり。ミリオンコミックス CRAFT SERIES 26) コミック 2008年9月1日
*感想、ネタバレありますのでご注意ください*

初版がもう16年も前なのだった。この年に生まれた子供さん方が高校生。時の経つのは速い。
最初に読んだ時、ナイーブな主人公・嶋くんがもう堪らなく可愛くて、どうにかしてあげたい気持ちになった。ということで、作中の上司・外川もノンケなのにこの可愛さに参ってすぐ恋人関係に。
紹介文を書こうと思って久々に読んだら私の記憶よりもかなり早くさくっと寝ていた。外川が非常に柔らか頭なのだった。

さくっと関係が進んだのだが、実は外川の過去は重かった。
父親が交通事故で死んだあと、ノイローゼになった母親が後追い心中を図った。弟が死に、生き残った母親は服役後、結局自殺した。
残された外川は祖父母に育てられた。
目の前で燃えて崩れていく夜中の自宅の記憶の中に静かに雪が降る。
仕事も出来、頼れる上司としてムードメーカーでもある明るい性格と思えた外川の過去を何気ない調子で語り聞かされた嶋くん。
その上で自分には家族に憧れがあると言われたら、この関係を続けていてはいけないと思ってしまう。それはもう自然な流れ。

どんどんと嶋くんへの愛しさが募る外川に対して嶋くんは距離を置きたいと思いつつ、出来ない。そこに外川の京都への転勤の話が来る。
その機に覚悟を決めて別れを切り出す嶋くん。自分がいつか重荷になることが怖いという彼の覚悟を翻すことが出来ない。自らの重い過去が相手を苦しめる。そのことを突き付けられるとどうしようもないのだった。
この別れのシーンの切なさには涙しかない。

二人の関係をつなぎ直したのは外川の仕事の後継をした小野田だった。
自分の気持ちに正直になる嶋くんの涙と頑張りの場面には読者として嬉し涙しかなかった。よかった、間に合った、本当によかった、という気持ち。

気が付くと映画化もされていた。
映画はどうだったのかな、ちょっと観てないけども(すみません。)
スピンオフとして小野田の恋愛譚『それでもやさしい恋をする』もあり、こちらもとても良い。

<24のセンチメント>18

|

24のセンチメント17 心の声が聴きたい~『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』豊田悠

いまさら紹介するまでもなく大ヒット作品、通称チェリまほ。
私が読んだのはSNSで無償で読めるとかでバンバン広告が流れてきた時期があったり、kindleアンリミテッドで読めた時期があったせいだった気がする。紹介されていたエレベータでのカットが面白くてつい読み始めたら、面白いのなんの。
申し訳ないことを自白すると、絵はあまり好みではなかった(すみません)でも、陰キャだと自認する主人公・安達の心理描写の細やかさと、イケメンで仕事も出来る黒沢が安達に対して臆病でドキドキ、ピュアなのに、妄想の面白さに受けまくった。仕事描写の細やかさも悩みの具体的な感じも好みだった。

さて、タイトルのように30歳まで童貞だった安達は30の誕生日の朝、急に周囲の人間の心の声が聴こえてくるようになってしまった。魔法使いになったのである。ただ、身体に触れている間だけという限定ではある。
わが身に起きた不思議現象、あまりのことに戸惑いつつも、満員電車を避け早めに出る、支払いを電子にするなど工夫し割とあっさりそのことに慣れていく。
が、ちょっと人が混雑した職場のビルのエレベータで密着した黒沢の心の声を聴き、彼のまさかの自分への恋心を知ってしまう。
そこからの展開がまた一段と面白い。
先輩社員に頼られて断り切れず仕事を代わり遅くまで残業する安達に差し入れのコーヒーを渡したり仕事を手伝う黒沢。
最終電車を逃した安達を部屋に誘うのだが、彼の部屋にはなぜか安達にぴったりサイズでよく似合うパジャマが買ってあったり。
黒沢の妄想の中を垣間見てしまって怖気づくのだが、美味しい朝ごはんを食べさせて貰ったり。
女子社員にモテモテで仕事も出来る黒沢の、安達に対してのみっともないほどにジタバタする恋のアプローチに笑いながらも凄く応援したくなる。

このところ酷い悲劇があって、マンガ原作のドラマ化に逆風が吹きすさぶっているが、少なくともちぇりまほに関して言えば、ドラマ化がまた良かった。
主役二人がぴったりで、真摯に役を体現してくれた。ほかの配役も素晴らしかったし、脚本も良かった。私はアマプラでドラマを続けて見て、あまりの出来の良さについ繰り返し見てしまった。そのくらい世界観の再現がよかった。昨今「おっさんずラブ」や「きのう何食べた?」など同性愛についてのドラマがとても当たっているのもあるが、ごく自然に受け入れられるドラマになっている。
原作者さんのコメントも読んだが、ドラマにとても喜んでおられるようだった。だから、全部を十把一絡げにして否定するものでもない。
結局は個々の問題である。

悲劇が起きたくだんのドラマについては、私はドラマも見てないし原作も知らない。だから何か言うべきことをまったくもたない。
亡くなった作家さんのご冥福をひたすらに祈り、これ以上誰か個人が責められることがありませんように、と願う。
そして、上手くいったメディアミックスもいっぱいあるよね、と思うので、成功例を参考に何か悪かったことがある組織やシステムが自省し、二度と同じような悲劇が起きませんように。

<24のセンチメント>17

|

24のセンチメント16異種恋愛譚~『うしみつどきどき古書店譚』tacocasi著

*下記 noteに挙げた分をこちらにも挙げておきます~。
昔に某サイトで企画で挙げていた<24のセンチメント>の続き。せめて、せめて今度こそ24個挙げ切る野望。
すごく大好きな作家さんなのですが、詳細は不明なんですけど出版社を移られたようです。
今回新装版で電書も出直して良かったな!と思っています。

≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫≫
祝!!新装版 電書発行!!
新装版 うしみつどきどき古書店譚 (光文社 BL COMICS / Vinyl)2024年2月23日感想、ネタバレありますのでご承知おきください。)

だいぶ前にサイトで企画して挙げていたBLブックガイドを挙げ直していたんだけど、手持ちの分が終わった。24個挙げるのを目標にしていたのになんと14個。我ながらなんという根性ナシであることよ。
で、同じ企画で再開するなら一番目はtacocasiさんのこの作品にしよう!と自分の中で決めていた。

 私がこの方の作品を最初に読んだのはそもそも電書版だった。Twitterで流れてきた表紙絵が可愛いのでふらっと前知識もナシに購入して読んだら好きすぎて、紙本も買った。他の作品も電書で買った。なんだか現在は別の出版社から電書版の新装版が出ているので契約を変更されたのだろう。詳細は私には不明だけども。今チェックするとこの作品は紙本のみとなっている。事情が色々あるんだろうな~と慮りつつ、全力で応援したい。
補記*と言ってる間に新装版が電書にて発行された!!良かった~~応援しますとも!!(2024年2月21日)

ともかく、絵が好みなのだ。シンプルな線でどこか緩い色香があってそこがいい。
物語はそんなに裕福ではない大学院生・小宮君が下宿先に戻るところから始まる。彼の下宿先は古い民家の二四書房の2階の部屋。
店主・西陽蔵は一見強面だったが、小宮君の好みにはドンピシャだった。
時代も変わったな~とここで思うのが、小宮君はまったく自分の性癖に悩んでいない。自分の好みの店主と帰り道で買ってきた豆もちを一緒に食べて、甘い物好きでぱくぱく食べる陽蔵さんの顔を眺めて嬉しい。
下宿代は月1万。古民家といってもこの破格の条件が、要請があったら店番手伝ってくれ、だった。
大学院生の小宮君は要請に従って店番を引き受けるが、PCで原稿を書いたり調べ物をしたりしながら出来るので、全然Win-Winなのだった。

ある日いつもにまして不思議な二人連れのお客様が陽蔵さんの副業関係で訪問する。どこかクラシカルな服装(大正時代の洋装みたいな)の美人女性と制服の女の子。通した後で大きな地震が起き、直後悲鳴が聞こえて駆けつけると、なんと陽蔵さんが何か液体を被ってしまってしゅるしゅる~~っと縮んでしまう。若返りの薬を浴びて少年の姿になってしまったのだった。
ショタの人にも堪らん展開で、少年の陽蔵さんも可愛い。

陽蔵さんの副業というのがここで明かされるが、神様相手に質屋をやっているのだった。神様の作るものを仕入れて販売したり、逆に人間界の依頼を神様に持って行ったりする。この時点では小宮君は知らないが、実は陽蔵さんも中身は西家の屋敷神なのだった。

ファンタジックな展開なのだけど、すごく地に足がついた生活ぶり。
信仰が薄れつつある現代において神様たちが自分でお金稼いで神社の修繕費捻出したりする。信仰が薄れると実体化の力が弱まったりするという話もある。縁切りの神様が縁結びも兼ねているとか、元々は妖怪だったが縁切りが人間の益になったので奉られて神化したとか。なるほどあるある、と頷く。
元々の西家の子孫である本当の店主・西が友人の裏切りによって生きる気力を失い自死を図ってしまったのが、祖霊が神化した陽蔵さんが中に入ることになった原因だった。

何代も子孫を見守り家を見守ってきた屋敷神ニシ様。それに恋した小宮君は、諸々の事柄が判明してもこの恋は変わらないという。
神様と人間の恋。
それもすごく素直。何も迷いがない。
小宮君のものすごく自然体なキャラと、不器用でどこか抜けてる屋敷神ニシ様のキャラに読んでいて癒される。エピに出てくる各神々も、偉いのに人型取る時に変なTシャツ着てラフスタイルだったりする感覚が新しい。

なんだかんだあって、落ち着くところに落ち着いた二人がいちゃいちゃしながら古民家二四書房で暮らしてる様がとても良い。なごむ。疲れているときには特に染みる。
何回も繰り返し読んでしまう一冊なのだ。

(補足*昔、サイトで公開していたBL作品紹介文の既出原稿再掲が終わったのでここから新しい紹介になります。<24のセンチメント>15
初版はNUUDE COMICS 東京漫画社発行 2021年8月15日)

新装版 弦巻先生の作家生活 (光文社 BL COMICS / Vinyl) Kindle版 2024年1月26日発行
新装版 お守りくん (光文社 BL COMICS / Vinyl)Kindle版 2024年1月26日発行

|

(フェルディナンド&ローゼマイン二次創作) 天岩戸譚

(『本好きの下剋上』二次創作です。なんだか二作目;)

星結びも無事に終わり、夫婦で共寝することにもすっかり慣れてきたある夜。半身を起こした状態だが広い寝台で私はすっかり寛いでいた。しかし、用意させた香りのよい酒精を嗜みながらローゼマインが唇の端をちょっと上げて急に話を始めた。
唐突だ。
いつもながら唐突だ。
さきほどまで貴族らしい笑顔でいたのに側近が下がるや否や、私にはやや不機嫌さを早速滲ませていた。きっとなにかよからぬことを考えているに違いない。

「わたくしの元いた世界に伝わる神々のお話に”天岩戸伝説”というのがあるのです。」
土の日の前の夜。せっかくの二人きりの貴重な時間にいったい何を言い出したのか?(アマノイワト?)聞き慣れぬ言葉にともかく先を促す。
「天照大神というお日様を司る女神様。こちらで言えば光の女神様にあたるお方が、弟君のあまりの悪さぶりに洞窟にお籠りになり岩戸を閉ざし出て来なくなりました。」
話の方向がまったく見えぬので黙ったまま聞く。ここは聞くしかないだろう。
「おそらく太陽が月の影に隠れる日蝕という現象を古来の人たちが恐れてそのような伝説を語り継いだのだろうとも思うのですが、それはともかく。
太陽神が隠れると世界は真っ暗になり、植物も育たず病人も出たり大変な騒ぎになりました。どうにか女神に岩戸から出てくださいとお願いするのですが、出てきて下さらないのです。」
この辺りで何か話の方向が見えてきた。ローゼマインは怒っている。
それには確かに気づいてはいた。話の中で”女神”だと言っているが、どうやら岩戸に籠っている神の話は私のことを喩えているらしい。
ため息が零れた。今夜は甘やかな夜になるのではなかったのか。

そう、つい先頃入手した貴重な水棲魔物。これは存在が稀少でようやく生きた状態で手に入ったのだ。これを増やしていくにはどうすればいいのか。隠し部屋に籠って研究に没頭してしまった。研究所で育てていくにしても、その育成方法から見極めねばならない。
ちょうど執務が少し落ち着いていた頃合いでもあったし、そもそもその魔物から得られる素材を私の全ての女神がかねてより欲しがっていた。どうにか人の手で増やせないかというのが研究の目的ではあった。が、それは研究所に持ち込む目途が立ってから報告したかった。目途が立たない内に報告して上手くいかない場合、残念に思われるのも口惜しい。
…私はローゼマインががっかりするのを見たくない。
なので研究の目的を秘匿して、どうにかローゼマインの入室も拒否し、強引に籠っていたのだ。
それを怒っている。
久々に一緒に取った夕食の席では側近達の手前見せないようにしていたらしいが。時々そこはかとなく怒りが滲み出ていたのを知っている。

ローゼマインは私がきちんとした食事を抜いたり徹夜したりするのを本当に嫌がる。だが、たかが二日くらい軽食や回復薬で済ませてもいいではないか…。心中ぼやく。一夜の徹夜くらいどうということもない。
執務もユストクス、ハルトムートらで問題なかったはずだ、指示は十分にしてあった。そんな風に反省のない私の思考を読んだのか、ローゼマインはちらりと咎めるような上目遣いを見せた後、尚も説明を続けた。
「ほかの神々があらゆる手を尽くしても出てきて下さらないのですよ、本当に困った”女神”様だこと。」
こてりと頬に手を当てる。エックハルトが何度も声を掛けても出てこないことをあてこすっている。私はちょっと目をそらしてグラスを口に運ぶ。
喉を流れる好みである筈の酒がやや苦く感じる。こくりと飲み込む。
「…それで君は何を言いたいのだ?」
食事を抜いたことを反省しろということか。今夜の夕食は共に取ったではないか。明日からもきちんと君と取るつもりだったと言うべきか悩む。この研究も君の為なのだから少しくらい見逃せばよいものをという気持ちがあるせいかもしれない。
…ゆうべ共寝をすっぽかしたことも?
いやそういうローゼマインだとて、エルヴィーラの新刊が手に入ると夢中になって寝台で読み続けることも多いではないか。日頃の不満がやや首を擡げる。そういう時どれだけ苦労して本を取り上げてきたか。

「困った神々の中から天鈿女命(あめのうずめのみこと)という方が妙案を思いつくのです。」
「妙案…?」
何か嫌な予感がする。絶対にろくでもないことに違いない。
「ええ、天鈿女命様はとてもふくよかで踊りも上手な方でした。天照様がお籠りになった岩戸の前で踊り始めるのです。新しい太陽神が現れた、お祝いだとかなんとか、他の神々が歌い、手を叩き、にぎやかに騒ぎ囃します。その騒ぎに天照様はつい引き戸を少し開けて覗こうとするのです。すかさず一人が引き戸を開け切り、一人が鏡を差し出し女神を映し、そして岩戸からとうとう天照大神を引っ張り出すことに成功するという言い伝えです。」
「ほぉ…」
感心して見せたものの、話の決着まで聞いてもあまり意味がよく分からない。策略で籠っていた女神を引っ張り出した、それで?という感じだ。
ローゼマインは私の反応の少なさに頷きながら、さらにいたずらっぽい表情で笑ってみせた。何か笑顔に黒い影が見える。
「面白いのはこの時天鈿女命様が踊ったのは日本最古のストリップ、わたくしのいた世界で言い伝えられる一番古いストリップだと言われてるのです。」
「すとりっぷ…?」
またしても聞き慣れない言葉が出てきた。異世界にしかない言葉なのであろう。そしてさきほど感じた黒い影が立ち上がり、ますます不穏な空気が漂い始める。

メスティオノーラの化身と言われるローゼマインは星結び後美しさに磨きをかけている。最初の内こそ羞恥に震えるシュミル然としていたのが、今ではすっかり…。幾夜も過ごした甘美な光景がつい脳内に過ってしまう。
(本当は人目に触れさせることなく、それこそ”アマノイワト”とやらでも二人だけで籠っていたい…。その思いをぐっと堪えているのだ。)
その間に、既に解かれた艶やかな黒髪を払いながらゆっくり寝台から降り、どこに用意していたのか数枚の薄布を寝衣の上に羽織った。
「ストリップというのは、こういう感じに踊るのです」
妖艶に笑ってみせたかと思うとなにやら口遊む。そして私の目を輝く金色の瞳で見つめたまま、細く白い指先を優美に舞わせ、ひらひらと一枚ずつ薄布を落としていく。
ローゼマインの優秀な側近が選んだ寝衣そのものが実に艶めかしいものであったのに、纏っていた薄布を一枚ずつ落とす仕草から目が離せない。自身の評価はともかく、私の女神は奉納舞も名手である。妖しい光が身を包むようだ。羽織っていた薄布がすべて足元に落ち、最後になった一枚を落とそうと胸元のリボンに手をやった。
白い輝くような裸身が露わになると考えた途端に、私の口から謝罪が無意識に口をついた。謝るしかないではないか!

…つまり愛する私の女神は、今度食事を抜いて睡眠を抜いて籠ったら岩戸=隠し部屋の前で皆の前でこの踊りを舞ってみせるぞ、と脅しているのだ。
このような破廉恥な踊りを、だ。悪辣にすぎる!!
ローゼマインがいた異世界が恐ろしく破廉恥なのは知ってはいたが、まさかこれほどとは!!私がほかの者がいる前でその薄布一枚でも落とすことを赦すとでも思っているのか!?

私の謝罪と反省に気を良くしたのか、満足気ににこりとしたローゼマインが寝台に戻って私の隣に身を横たえる。
艶やかな髪や柔らかな身体から漂うほのかな香りを鼻腔で味わう。
…ようやく。
ようやく、私は愛しい妻に思い描いていた甘やかな夜を自らの指で解くことを赦されたのだった。

(補足)
最初の頃は翻弄されるばかりだったローゼマインが若干慣れてきた&研究に浮かれ、久々に食事と睡眠を抜いたアウブ配におしおきを考えた夜のお話です。天岩戸って女神が籠る話なんだよね~やっぱりフェルディナンドの方が女神然としてるなと思ったことが一つ。
あと、この時入手した水棲魔物は真珠貝の母貝(ユルゲンにおけるアコヤ貝系)。アレキで真珠が養殖できたらいいね、とTwitter(現X)で呟いたネタです。養殖までは大変そう。
ちなみにこの夜の後は、フェルディナンドが籠りそうになると「すと…」とアウブが口にするだけでバッと部屋から出てくるようになります。

ストリップ風に踊る時のイメージは「サロメ」です。ヨカナーンの首を欲しがってサロメが踊ったのも一枚ずつ布を落とす色っぽい系なので、なりきりで踊っています。この時口遊んだ曲をフェルディナンドが後に所望します。(案外懲りない。)

|

«マティアスの夢 ~蝶に寄せて~