『本好きの下剋上』ネタバレ感想
なろう小説で2013年からwebで公開されて、すでに本編は2017年に完結しているので、ネタバレ感想も許されると思うのだけど、発行本の方はまだ完結まで行っていないので、完結まではまだ読んでいない方は下記は読まないようにお気を付けください。
超人気ラノベなので、このブログも検索でそうそう拾われるとも思えないのでお気楽に思いつくまま感想を書くことにしました。
そう、私の沼は実は『本好きの下剋上』でしたw
まあいくら隠して書いていても分かる人には分かってたと思います。
最初に話題に出た頃はタイトルだけチェックしていて、読んでなかったのですが、書籍化されkindleアンリミで読めるようになった時に読める部分だけ読んで面白いなーとは思っていました。
WEB公開の方を読まずにアンリミで飛び飛び読んでいたのだけど、ほぼほぼ完結巻間近という段階で電書まとめ買いしました。
それを最初から通しで読み始めてから沼が本格化、もう眼精疲労の嵐…
ネット検索したらなんだかそういう人ばっかりです(ナカーマ多し!)
アニメの方もプライムでちょこちょこ見ていたのだけど、第三期公開の際にまた最初から見ました。
いろいろ不評もあるようですが、ヒロインが幼女なのでお子様から楽しめるよう、絵が細密すぎるより程よく見やすい作り方だとも思いました。
ここ数年、ノイタミナ枠とか少女漫画原作のアニメ化の水準が上がっているのですが、私が子供の頃好きだったアニメを考えると十分な感じ。
なんとなくこんな言い方では褒めてない感じするかもですが、私自身は非常に楽しんで観ました。
個人的にはフェルディナンド役の声優さん、速水奨さんが大好きですv
その後、ファンブック、CDドラマも入手、ついでにアンソロも入手…オーディブルも今現在聴けるところまでは聴きました。
声優さん凄いな…。
そうするとそれぞれに特典書き下ろし短編などもあって、本編では謎だった部分も公式にQ&Aがあったり、第三者視点の語りで謎が判明したりなどもするのでさらに沼が深まるわけです。
たまに、媒体によってこの表現、ちょっと本編と違うなーやや誤解?とか、ほう、短くするのにさくっとうまく纏めたな~とかいろいろ。
完結読んでから一から読み直すとともかく伏線の張り方が凄い。
Q&Aを読むと納得ですが、長い小説なのだけど大きくきちんと最初から最後まで構築されて、必ず通るイベント、分岐点が決まっていたそうです。そこを通らないと最後に辿り着けないというのが凄い。
キャラ設定もきちんとしてて、このキャラだからこう動く、という流れに違和感がない。
基本的なテーマは家族愛。
物語は異世界転生モノで、常軌を逸した本好きの日本人女性・本須麗乃が異世界の虚弱な少女・マイン(=改名後ローゼマイン)に転生するというところから始まります。マインはいつ死んでもおかしくない虚弱ながら両親の愛に守られ、愛されています。
それに対して転生した麗乃は本にしか興味がなく当初の行動は相当にエゴイスティックですらあるのに、一緒に生活していく中で徐々に家族への愛を大事に思うようになり、人間的な成長を重ねていきます。
貧民の生活はともかく厳しく、その描写は戦前の日本、前近代のヨーロッパなどを参考にされているのか、貧民は教育もまともに受けられず識字率は低く5,6歳から家事手伝い当たり前、
魔力を持つ貴族に至っても洗礼式を受けるまで存在を認められていない世界。
厳しい身分制度によるまともな人権がない扱いなど社会制度の数々の問題も割と近い過去の日本にもあったし(「おしん」なども小さい子供の内に過酷な奉公に出されていた;)、今でも世界ではそういう扱いを受けている子供もいることを思い、架空世界とはいえ描写に胸が痛みます。
弱者を救おうとしてローゼマインが下手に動くと社会全体を軋ませ揺るがせることにもなると先見性のある後見人に諫められたりもします。
目の前にいても構造的には救えない、今は諦めて目が届く範囲にだけ手を伸ばしなさいという諭しは、この作家さんの非常に現実的な視座も感じます。居丈高で使えない文官の話などは、現在日本の官僚や何も分かっていない政治家達のアナロジーのようでもあります。
社会構造だけでなく、数々の問題ある家族関係も描かれています。
ローゼマインが皆に大事にされ愛される一方、彼女を最初から最後まで守るフェルディナンドは領主一族に引き取られながらも領主の妻から疎まれ非常な虐待を受け続けていた。成人後も常に命の危険に晒されていたほど。
公式には断片的にしか書かれていないけれど、このフェルディナンドの成長途中、数々の命の危機を救ってきたのがローゼマインだと思われます。
ファンの間では「時かけ」と呼ばれていて、二次創作ですでにいろいろファンによる展開が書かれているけども、
本編でマインを救ったのはフェルディナンド、そのフェルディナンドを時系列のアーレンスバッハだけでなく、フェルディナンドの子供時代、過去に戻って救うのがローゼマインという解釈でほぼ間違いなさそう。
タイムパラドックスは「神々による複数回ある織地の試み」という流れで…。
フェルディナンドが本が高価な世界なのに自分で魔術具を作っては売りさばいで高価な本を買いあさってマイ図書館を持つほどであるのも、よく考えたら時かけによる本好きローゼマインの刷り込みかと納得がいくし、神殿に図書室を思い付きでたまたま作っていたのも、平民である娘を躊躇いなく膝に乗せ聖典を読み聞かせるという所業もw
古語に堪能でフェシュピールにも堪能なのもローゼマインの教育のおかげだったのか、とは想像がつく。
フェルディナンドの記憶にかすかに残る「いつの間にか姿を消した教育係りの女性」というのがおそらく時空を掛けて救いに駆け付けたローゼマイン。それが廻りめぐってフェルディナンドが施すローゼマインへの教育になるというのがタイムパラドックスならではの面白さ、うん、ホントによく出来ているなと思います。
伏線といえば、フェルディナンドの求婚の言葉は、マインが貴族に取り込まれた際に父親であるギュンターへの言葉との対照と思っていたのですが、その後一から読み直したら「書籍第一部II 巻末SS 洗濯中の井戸端会議」に出てきた、エーファへのギュンターの求婚の言葉との対照でもあったのでした。
ギュンターはまるで『ドン・キホーテ』のように騎士物語に憧れ、親の勧める就職先を蹴って自ら士長に直談判し町を守る兵士になる。その上で一目惚れした士長の娘であるエーファにまるで騎士のように日参し愛を乞い魔石を捧げて求婚した、という一連の話がエーファによって語られている。その言葉が「街ごと家族を守れる兵士になりたいと俺は本気で思っている。その夢を笑わなかったエーファに側にいてほしい」
ギュンターとローゼマインのやることがそっくりというのはあちこちに何かと出てくるが、この求婚の言葉にきゅんとほだされるエーファにもマインはちゃんと似ているのですw
そしてこの愛し愛されるローゼマインの家族に対して、毒親達の例がもう本当にいっぱい…
祖母・ヴェローニカによって母親の手から取り上げられ、ただただ甘やかされ教育が疎かになっていた領主の息子ヴィルフリートは放任という虐待を受けていたともいえる。あやうく廃嫡の危機。それを救ってくれたマインに最初の内こそ感謝していたのに、結局はヴェローニカのやり方に戻っていく愚かな側近達に囲まれ、せっかくスペックはあるのに側近に都合の良い主になってしまう。
素直という良い性質が悪い方に使われる気の毒な少年…。
自分を救ってくれたローゼマインのことを尊敬していたのに父親の「問題娘」という言葉の刷り込みも受けたのもまずかった。
いろいろ残念…。これから書かれるかもしれないハンネ視点の続編の中でどうなっていくかな~
けっこう嫌われ気味かもですが、私はもうちょっと良い方向になればいいのになと思っています。
実の親に策略の駒に使われ、結果として上手くいかなったことを責められ暴力を振るわれていたローデリヒ。
発育の良い身体のため、親が機嫌取りに差し出し性的虐待を受けていたグレーティア。
(これについては本編でもあちこちに匂わせがあったけども、今回のふぁんぶ7のQ&Aでは具体的に誰に差し出されていたかがはっきり書かれ、悲惨さが浮き彫りになりました;)
引き取られた先の血のつながらぬ兄弟らにも揶揄われ虐められていたなどもありましたが、子供は残酷なのでグレーティアの身に何が行われているかを察知し、自分たちとは違う立場の彼女を貶め虐めているということではないかとも思っていました。
この辺ははっきりは書かれていませんが、今回名前がはっきり出された先々に機嫌取りに差し出すために逆にほかの人間には近づけないように扱われていた可能性もあります。ローデリヒとグレーティアはローゼマインに救われて本当に良かった、、。
物語の悪役としてのゲオルギーネはヴェローニカに厳しく教育を受けた末にその目標を取り上げられ、結局はその憎悪をすべて弟=ジルヴェスターに向けてしまう。もっと幸福になる道はいくらでもあったはずの優秀な能力をただ目指した故郷の領地を奪うだけに拘る。
なぜそこに拘る?というのは今の世界情勢でもあるような。侵略と破壊と混乱に魅入られた人。
そのゲオルギーネの娘、ディートリンデは母親に完全に無視された放置状態だったと思われる。
残す子供一人となって単なる駒としてしか目を向けて貰えない、教育も行き届かない哀れさ。
領主になることになって浮かれ状態になった上に、王を目指すならやってみればいいなど母親に唆されたらそりゃもう舞い踊るしかない。
ゲオは結局ディートリンデが何をどう不敬なことを言おうがしようがすべてフェルディナンドの罪に押し付けられるからそりゃもう唆す。
娘への愛などひとかけらもない。この人は愛すことも愛されることも何も知らない。
万が一領地を手に入れたからといって何が手に残ったのだろうか。
母親が死んで若い後妻に弟を虐待され、父親を見捨てて家を出ることになったフィリーネ。
後妻が血のつながらぬ前妻の子供たちを虐待するというのは昔からよくある話ではあるけども。
父親が名捧げしたゲオルギーネに心酔するあまり敵対することになったマティアス。
思い通りに動かなかったことを嘲られ、容赦なく殺されそうになる父と息子、最後の戦いは壮絶でした。
マティアスはヴィルフリートと違い、考え深く、自らの進む道をよくよく考え、支える主を選んでいるところが良いです。
マティアスとラウレンツのコンビはこれはこれで別の物語が生まれそうな良さがありますw
主人公のローゼマインが注がれ注ぐ愛に比して、現代社会にも見られる毒親とその子供との様々な形が周囲の関係に振りまかれているのもこの長い物語の特徴ではありましょう。
深い情をみせるローゼマインに対して割と早い時期からその情を自分にも無意識に欲していたフェルディナンド。
(ルッツの家族を呼びつけた際に「どうすれば、君は…」と思った場面の「…」は「その情を向けてくれるのか?」と読めます)
好意に疎いフェルディナンドにローゼマインがはっきり「家族同然」と言ったことで彼の中には「家族同然フィーバー」が起きるのも当然かもw
CDドラマ特典SSで虹色魔石のお守りを作るフェルディナンド視点の語りがそのフィーバーぶりを一番よく示していて、ちょっと受けます。
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