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マティアスの夢 ~蝶に寄せて~

(いきなりですが『本好きの下剋上』二次創作です)
(先日noteの方に挙げましたが、どうせだからこっちにも挙げておきます。)

一匹の蝶が海峡を渡る詩が妙に胸に残っている。
詩集など購入したこともない。教科書に載っていた一行の詩。大海原を頼りなく羽ばたく蝶には島影も休める船影も見えない。夜闇も飛ぶのか?孤独に。詩など口にしたら後輩のラウレンツは目を丸くするだろうからずっと心に秘めている。ただ時々蝶の孤独が胸をよぎるだけだ。

彼はよく夢に見る。
「父上!」いや、その名を呼び直す。「グラオザム!」
(時代劇かよ)と自分に突っ込む。どうやら自分は西洋の騎士のようだ。敵対することになった実父の名前をわざわざ言い直しているあたり我ながら律儀な性分だと苦笑する。相手は騎士ではない。が、優秀な科学者の頭脳で自らの肉体を改造し、特撮ドラマに出てくる奇怪なサイボーグのよう。実父は美しい貴族女性に心酔し、夫婦ともに命を捧げて妄執に取り憑かれていた。彼女を我が領主にするという妄念だ。醜く石化した身体半分と付けた義手から青い炎が燃え盛り、息子である自分に襲いかかってくる。強い。恐ろしく強い。冷たい汗が背中を伝う。

(守りきれぬ!)
焦るマティアスに様々な色に輝く光が降り注ぐ。彼の後ろには某アニメの某バスのレッサーパンダ版に乗った一人の少女が居る。変な車に似合わない絶世の美少女は、艶やかな濃紺の長い髪に金蜜の輝く瞳で必死に不思議な言葉を唱え彼の為に祈っている。その度に彼の力が増し形勢が逆転していく。それが誇らしくて堪らない。

父親が主と戴く女性は他人の為に祈ることなどなく、自分の手を汚すことなく他者を使い、今は妄念のままに己が郷里を焦土にする。混沌の女神に憑りつかれ、とうとう他領の貴族達を駒とし、侵攻を開始した。比して自分が守るのは自らの危険も顧みず、常に弱者をも救う慈愛の女神。虚弱で非力でありながら、彼女は必至で祈りを捧げる。領地の為に領民の為にと願う。そして今は自分の為に。
見返りを求めているわけではない、ただそのことが誇らしかった。
選んだ道は決して間違っていない。それでも認められたかった、この父に。せめて止めを刺せれば!と闘う。
が、逆に邪魔な羽虫を潰すように父が迫り、その瞬間守りによって弾かれ彼は飛ばされた。父の本気の殺意に戦いの場から遠く弾かれた。

そこでいつも目が覚める。実父の本気の殺意に弾かれた自分。自分にもあの妄執の血が流れているのかという恐怖ごと、この手で止めを刺して終わらせたかった。でも、出来なかった。
ふと、冷たい汗が流れた背中が温かくなってきたことに気づく。目を開けるといつの間にかラウレンツが自分を背中から抱き込んでいる。いつも明るい後輩がベタベタ纏わりついてくるのを拒んでいるのに。連日の泊りがけ、実験開けの宅飲みで酔った隙に抱き込まれている。(おい、離れろ)と言いかけてやめた。今は暖かい背中の熱が有り難かった。
自分は1人じゃない。
孤独な蝶ではない。
ただ、もしかしたら今の自分は夢に見る騎士の彼が束の間見る幸せな夢かもしれない。遠く弾かれ飛ばされた彼をしっかり受け止めたのは騎士姿のラウレンツだった。


(補足)
最初の詩は「てふてふが一匹韃靼海峡を渡って行った」安西冬衛の詩(教科書に載ってた)で、解釈はマティアス視点です。
ラストは「胡蝶の夢」荘子ですが、夢展開でよくあるやつ。
すみません。漢詩習う時最初に教科書で出てきた時、SF!って思ったものですよね。

二次創作に手を出したのはこれが初めてかも!
恐るべし!『本好きの下剋上』沼!

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